池塘春草夢

長文になるときに使う、テキトーに。

『格差の自動化』感想

 この本は例えば貧困政策について、アルゴリズムによって自動化された判定システムを導入することによって起こる格差の拡大に対して検討と批判を加える本(格差の自動化)ではありません。

 この本が描くのはアメリカの貧困政策が特定の州でどう行われていて、現状どうなっていて、ユーザーはどう感じているのか?ということについてです。

自動化についての知見は、終章を除いてほとんどありません。

 

 さて、この本は主観的な著者の主張に合う様々な人々のインタビューがほぼ無批判に採用されている。そして著者の価値観による修辞に満ちた記述が終章まで貫かれている。当事者たちへのインタビューとそれに寄り添う利害関係者のコメントに著者の感想をを混ぜて構成された非常に癖のある文体なので合わない人は本当に合わないと思う。

 

 既に書いたように、この本は著者の主観による情報選別に満ちており、かつインタビューや著者の主張の正しさを判断する材料は読者にはほとんど与えられない。

 

まぁ、そういう本である。

 

では、カンタンに内容について感想を述べておく。

 2章の事例は恐らくシステムの自動化もデジタル化も関係ない。
新システムの要件(p.61)を満たすための処理手続きと職員の権限設定に問題があるものと思われる。

 

 3章の事例も恐らくシステムの自動化もデジタル化も関係ない。
問題点ははっきりしていて予算がないこと。それを置いて批判の文章が続きます。ただし登録情報が"自動的に"司法機関と共有されるのが問題という点は同意します。

 

 4章の事例もシステムの自動化は関係なく、デジタル化もあまり関係がない。
このシステムは調査対象をピックアップするシステムであり、実際に調査対象を決定するのは人。更にシステムの効果について著者は数字を(p.222)解釈して疑問を呈しますが、この解釈は、互いに見落としや誤検知があることを示しているだけです。
なお、決定された調査が過酷であり、また非道であるという事実は同意できる。

 

終章の分析と提言には一読の価値があります。

この本の価値は終章にあると言えます。それ以外は読まなくてもよいでしょう。